真夏の夜の夢

投稿者: | 2021-02-28

 今日は何の学びも“気づき”もない、ある珍しい出来事の顛末の話。「助けて~」と誰かが私に救いを求める夢を見た、と思っていた。「助けて~」。だんだん眠りが浅くなっていき嫌な夢を見ちゃったなぁと、寝返りを打ちながら少しムカついていた。「助けて~」。次の瞬間バチッと目が覚め、ガバッとベッドから飛び出した。違う!夢じゃない。ほんとに聞こえる!

 2005年の6月のある晩、私は当時たばこを吸っていた事もあり、窓を開けっ放しで眠るくせが付いていて、その夜も豪快に開け放って眠っていた。その日は仕事で帰りが遅くなったことと、次の日が朝早かったことで、早く眠らなければと多少焦っていた。私の家は川のすぐほとりにあり、二階の私の部屋からは水面が望めるくらいに近い。

 多分夜中の2時か3時くらいだったと思う。川の方から恐らく子供の声で「助けて~」と力無く叫ぶ声が聞こえた。完全に眠っていた私は、今ひとつ現実感がないまま正義感の赴くままに、とりあえずケイタイだけ握りしめて、パジャマのままサンダルを突っかけて、川へダッシュした。当時堤防が工事中で土が山盛りに積まれていて、おまけに真っ暗なもんだから、どこをどう行けばいいのか分からず、とにかくその山をよじ登って川へ出た。耳を澄ますと確かに聞こえる。でもどこにいるのか暗くて全然分からない。「お~い!大丈夫か~!?どこだぁ~」暗闇に私の声が響いた。川幅は約300メートル。どうもその声は向こう岸の水面近くから聞こえてくるような気がした。「助けて~」。どう声をかけてもそれしか返ってこない。これはその声の主が川に落ちてしまって、自力で上れず、何かに捕まりながら助けを呼んでいるんだなと判断した。「これは私だけではどうにもならない。一刻を争う」。持っていたケイタイで警察へ電話した。「事故ですか?」と最初の一言が飛び込んできた。事情を説明して住所を告げ、それでも警官は何かゆったりとしていて狂言かと疑っている節が感じ取れたので、わざと電話越しに大声で「お~い!大丈夫か!がんばれ!」と怒鳴ってやった。途端に警官の態度が変わり「分かりました!すぐに向かいます!」。

 警察が来るまでの間、とにかくその人を励まそうと叫び続けた。「今警察が来るからぁ!頑張ってぇ!もうすぐ来るからぁ~!助けるからぁ~!!」。野球少年時代にキャッチャーだった私は、あの頃の「しまっていこう~!!」バリに、腹の底から声を出して応援した。シ~ンとした真夜中の川岸にあまりに私の声がよく通るので、半身になってちょっと山びこの受けのポーズをとってみたくなった。よく近所の人が起きてこなかったと思う。警官が到着して「やはりあちら岸ですね」という話になって、パトカーがサイレンを鳴らしながら橋へ向かった。こちら側のパトカー三台がハイビームで向こう岸を狙った。しばらくして向こう岸から警官の怒号が聞こえた。「しっかりつかまって!」。1分か2分か少し間があって、「救出しました!」と聞こえた。パトカーが到着した時点で自分の役目は終わったなと思っていて、なんだか突然の疲労感を覚え始めていたので、次の瞬間勢いで「帰っても良いですかぁ~?」と思わず向こう岸へ叫んでしまった。テンションが上がっていたのだろう。家に帰って泥だらけの足を洗ってとにかく寝たかった。「もうちょっとしか寝れないじゃん」。とりあえず助かって良かった。

 次の日警察から家に電話があって、その人は子供ではなく、おばあさんだったそうだ。どこかに引っかかっていて水に落ちてはいなかったらしい。なんでまたあんな時間にあんな誰もいない場所へ行ったんだろう?少しお礼とかもらえるのかな?と卑しくも頭をよぎったが、「そんなところに一人で行くおばあさんが、金なんか持ってるわけねぇか」と思い直した。家に帰ると県警オリジナルのテレホンカードがお礼として一枚届いていた。今どきテレホンカードって……。ま、夢じゃなかったって証拠という事で。

 人生って、色んな事が起きるよね。

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