Xデー(その1)

投稿者: | 2021-05-21

 お客様がその日の朝にどうしても必要だという条件で、ある印刷物を受注した。予算があまりないということでデザイナーを使わず私がレイアウトし、印刷はいつもの地元の印刷業者ではなく、あるネットプリントサービスを使った。「その日の朝」ということは=前の日の夕方までに納品というのが暗黙の了解事項だ。そこから逆算していついつまでに校正を上げて検討してもらい、修正して再検討して……というスケジュールを立て、制作進行していく。今回ギリギリのスケジュールになってしまい、期日までに納品が間に合うか、進行中も内心ハラハラしていた。何か一つでも歯車がズレると挽回するのが難しそうだ。

 ネットプリントを使うときはいつも着払いで、お客様から運送会社のドライバーさんに印刷料金を直接現金で払ってもらっていた。しかし今回は印刷部数が多いために、つまり支払う金額が大きい理由で、お客様から銀行振り込みにしたいと依頼があった。銀行振り込みの場合は前入金ということで、品物が納品される前に料金を支払わなければならない。
 本来であれば、納品された品物がしっかり約束通りに、数も質もちゃんと出来上がっているか確認できた後で、「お支払いしましょう」となるのが筋だと思う。しかし最近では時代の流れなのか、取りっパグれを防ぐためなのか、先に支払うシステムが特にネットビジネスの中で増えてきている。新聞折込なんかもそうだ。考え方がある意味で古い私のお客様の経理部は、最初渋っていたが、仕方がないと条件を呑んでくれた。

 私はホッとして問題は消えたと思い、印刷日数を7営業日に設定し申し込みを済ませ、続けてWeb入稿をし終わった。あとは振込入金の確認が業者の方でできれば、受付が完了し納期が判明する。と、今考えてみると私はここでミスを犯している。実はもうギリギリの日程で進んでいたにも関わらず、その時は何となくまだ余裕があると錯覚を起こしてしまい、入金が確認された次の日から7営業日の1日目がカウントされ始めることを計算していなかった。

 そしてさらに決定的なことが判明した。お客様の経理システムの都合で、今日振り込み手続きをすると、翌日の入金になってしまうことが分かったのだ。電信扱いじゃないのか……。そこでまた無情にもプラス1日。そんなこんなでとにかく入金が確認され、はじき出された納品日がメールで報告された。日にちを見た瞬間、血の気が引いた。正直もっと一日二日余裕があると思っていた。示された納品日は、何と、『約束の納品日の夕方に発送』と決定していた。全然間に合わない。今から何としても「2日間」縮めなければならない。しかも予算が無い。
 意識が遠のいていきそうな症状を必死にこらえながら、どうすればいいかをこれまた必死に考えた。すでに私の手を離れ「印刷」と「運送」の二つの大企業に委ねられた、私とお客様との約束の行く末を、もう一度自分へ引き寄せるために、私と時間との戦いが幕を開けた。

 (その2)へ続く

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