女形

投稿者: | 2021-06-07

 今日はバカ話を一つ。男性である私にとって、飲み会などで披露する出し物やいわゆる“一発芸”と言われるもので手っ取り早いのは「女装」だろう。口紅をつけてスカートさえ穿いておけば、まずウケる。盛り上げることが目的なので、「気持ち悪~い」などと卑下されたとしても問題ではなく、みんなのリアクションが嫌悪・好意を選ばず大きいほどに、その試みは成功と言えるだろう。
 私も若い頃に二回ほどトライしたことがあって、二回ともだいぶウケたと思う。一回目は高校一年生の時に予餞会と呼ばれたいわゆる3年生を送る会で、全校生徒の前でクラスで寸劇をした時にスカートを着用した。少し恥ずかしかったが、演技中に3年の先輩から名指しで声援を受け緊張がほどけた。調子に乗ってクルっと回ったときに、下着が見えたとか見えそうだったとか、後になって誰かに言われた。間違いなく笑いは取ったと思う。

 二度目は21か22歳くらいの時の飲み会でやってみた。行きつけのスナックを借り切ってアルバイト先の仲間を集めて大騒ぎした夜のこと。結婚式場でアルバイトしていた関係で、衣装室の着付けの先生と仲良くなり、事情を話して花嫁さん用の衣装を何とかお借りすることができた。かつらも付け、バッチリ本格的にメイクまでしてもらい、着物を着付けてもらってまでして、何と、芸者さんに扮した。高下駄を履いた身長174.5cmの、さらに日本髪のかつらまで被ったバカでかい芸妓さんの移動は極めて困難だった。誰かに付き添ってもらってタクシーに何とか乗せてもらった。運転手さんはどう思っただろう。先生にリクエストして、唇の端から少し下がった位置につけてもらったほくろがヤケに効いていた。

 ウケた、というか「おお~」という感じだった。これはもちろん私のサプライズ企画で、誰も私がそんな格好で現れるとは思っていない。ちょっとやり過ぎかなと実は思っていて、「引かれてしまうかな」とみんなの反応が少し心配だったのだが、全くの杞憂に終わった。わざと少し遅れてスナックに到着し扉を開けると、驚嘆の歓声が私を迎えてくれた。みんながとても喜んでくれ、凄い夜になる予感がした。「やった!!」
 予感は想像を超えて的中し、みんなが本当に楽しそうで夢のような夜になった。いよいよ盛り上がってきたころに、一曲歌わせてもらった。B’zさんの♪Bad Communicationという曲で、最初はゆっくり曲を流してもらってそのままの芸妓の格好で歌い、リズムが変わるところからカラオケのスピードを上げて、早口で歌うようにした。加えてスピードを上げ始めるきっかけで、私は着物を素早く脱ぎ、下に着ていたピンクと黄色と黒のレオタード姿に変身し、そのまま激しく踊りながら、まくし立てるようにシャウトした。顔面白塗りで日本髪を戴いたレオタード姿の174.5cmがみんなの瞳にどう映ったかは、想像にお任せする。小さなスナックは興奮のるつぼと化した。

 時代はバブルが間もなく終わりを告げようとする頃。自分で企画して、店と交渉し、一人ひとり声をかけて来場者を集め、出し物を準備し、当日演じてみんなを盛り上げる。クレイジーな時代に私も多少クレイジーだったかもしれない。でもそういうバカな経験も、私は大真面目に、大切だったと思っている。バカも本気でやれば、それなりに人に喜んでもらえることに貢献できる。そんな夜があってもいい。でも一番楽しんだのは間違いなく私自身だった。

 たまにはこういう回があってもいいよね。

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