Ambition

投稿者: | 2021-03-29

 最近はあまりテレビを観なくなってしまったのだが、今でもゴールデンタイムに放送されるクイズ番組はどの局でも多く視聴者の人気を集めているようだ。私なんかが立ち向かいようのない難問題を出すものから、ちょっとした閃きがないと解けないトンチの効いた問題で争うものなど、同じクイズ番組の中でも個性は様々だ。「クイズ番組タレント」というカテゴリーが成立するほど高い人気を誇っている。それを観ながらお茶の間では出演者の解答に一喜一憂し、あるときは溜飲を下げ、またあるときは自分の知識の無さを嘆いたりしているのだろう。勉強熱心な人は後で復習さえするかもしれない。
 人間の知識欲の旺盛さはこの現象だけを見ても垣間見えてくる。一つの番組が打ち切りにならずに存続するということは、たくさんの人が観ているという証拠でもある。テレビを観ているだけで、お手軽に探究心をある程度満足させられる。知識の世界が拡がることは多くの人にとって快感を得られる刺激になるようだ。

 10代20代の頃は海外に行きたくて仕方がなかった。旅行ではなく、拠点を置き生活するために。1,2週間旅行で海外に滞在したところで思い出作りにはなるかもしれないが、私はそれ以上のものを求めていた。海外、特にアメリカに行けばきっと何かあると、信じて疑わなかった。未知の世界に身を投じ、自分の世界を拡げ、そこで何ができるか挑戦する。当時私はそれをまるで宿命のように感じていた。自分の知らない世界への憧れは抑えようとするにはあまりにも強すぎた。
 一般的にもそういう思いは広く若者の間にあったと思う。私だけが特別に冒険心が強かったわけではない。ある程度不自由なく育てられてきた世代にとって、共通の趣向とだったと言えるかもしれない。

 現代の若いサラリーマンの方々に対して行ったアンケートの結果を見たことがある。とても保守的な回答が多かったそうだ。「出世よりも安定した休日数」や「仕事よりもプライベート優先」、「転勤や海外勤務はなるべく避けたい」等々。時代の移り変わりを、人々の心情の推移を如実に表していると思う。良い悪いは分からない。個人差はあれども事実はそうなのだ。ただ私には考えられない結果になっている。例えばもし海外勤務に行けるなら、人のお金で海外で経験が積めるなら、私だったら選択の余地はなかっただろう。びっくりする。

 コロナのことを考慮せずに今を語ることはできない。しかしコロナがなかったとしても、このような閉じこもった方向への心の傾きは、特に若い方たちの中で顕著なようだ。暗雲が立ちこめる未来に、希望の光を見出すことができず、元気が出ない。どうせ頑張ったって、明日津波が押し寄せて来れば一瞬で全てが終わりだ。そんな感じだろうか。
 反省の意を含めて、“外”の世界にだけ何かを追い求めるのは間違っていると考える。環境を変えたり、未知の世界へ飛び込んで新しい刺激を受けることは、私はとてもいいことだと思う。けれども忘れてはいけないことは、目的が「場所」ではないこと。どんなときもどこに居ても、自分と向き合う心を忘れないこと。それが守られるのなら、ぜひ飛び出して欲しい。
 災害や疫病はこれからも起こるし、明日何が起きるかは私には分からない。でも今生きていられる恵みにも留意したい。不運にも幸運にもきっと意味がある。だから恐れずに委ねて、若い方々、心の声に耳を澄ませて欲しい。可能性を自分で少なくしないで欲しい。私もそうしたい。

 クイズ番組で拡げられる世界はそう広くない。

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