Elite

投稿者: | 2021-03-31

 昨日も少し触れたが、キングスレイ・ウォードさんが書いた「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」という本についてまた書きたい。タイトルが示すとおり、この本は著者が書いた自分の息子への本当に個人的な手紙を一冊にまとめたものであって、一般の読者や「売れること」を意識して書かれたものではない。よって読了後、私が持ったこの本に対する印象は、著者にしてみれば的外れで、どうでもいい感想として流されてしまうだろう。私は「ビジネス界で優等生が失敗しないための注意点」とこの本を捉えた。

 著者は一代で会社を7つも立ち上げ立派に成長させた。そしてそれらを、アドバイスを受けながらも自力で成長してきた有能な息子に継承する。この本ではその過程で父から息子へ送られた30通りのアドバイスが披露されている。
 なるほどこの本に書かれていることは正論で、参考になる内容が非常に多かった。アドバイスの内容から、成功するまでの著者の相当な苦労の跡が窺える。私も一応“ビジネス”に携わっている一人として、留意しておくべき点がちりばめられていた。優等生的という言葉で私が批判したのは一部であることを強調したい。それが証拠に一昨晩は夜中までかかってもこの本を読み切りたい衝動があり、実際にそうなった。

 私たちは先人たちの知恵の上に立って生きていくことができる。だから全くのゼロから出発する必要はない。一人ひとりが生まれていちいちゼロから始めなければならなかったのなら、人類の進歩はこれほどまでには進んでいなかった。科学技術や医療、機械、天文など様々な学問の分野では顕著な事実だと思う。そういった知識の蓄積は我々の生活を物質的に豊かにするために大いに役立っている。
 心はどうだろう。心の進歩を目指し、先人たちの知恵の蓄積を利用して、私たちは先人たちより進んだ地点から出発しているだろうか。言葉がある。しかし経験を積んでその言葉に出会わなければ、その言葉は私のものにならない。愛しき聖書がある。しかし私が私の経験を通して聖書に書かれている言葉に、本当の意味で出会わなければ、私は聖書を感じることができない。心が豊かにならない。
 例えば聖書という書物がある以上、原始時代からの出発ではないと言える。しかし技術を習得するような速度で、本当の経験を積めないし、心は成長を遂げはしない。充分な心の成長を待たずに、知識だけ詰め込まれるエリートたちには少し同情する。

 この本で、著者である父は「獅子は我が子を千尋の谷へ突き落とす」や「可愛い子には旅をさせろ」というやり方とは正反対の、息子がなるべく失敗をしないようにアドバイスを送り続けた。私はこれを踏まえて、息子の話を読んでみたくもなった。反発する気持ちもあったのではと思うが、そこはエリートならではの受け止め方があるのかもしれない。うまく帳尻を合わせていったのだろうか。
 父からの影響は大きい場合がある。下手をしたら一生父親の視線を、どこかで意識しながら生きなければならなくなるかもしれない。線引きは難しい。どこまでやれば“ため”になって、いつ頃手を引けば良いのか。著者が引き際を失敗していなければ良いのだが。

 偉大な親の跡を継ぐのは大変だろうな。

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