入院(その1)

投稿者: | 2021-07-12

 急にお腹が痛くなった。9年くらい前の秋の話。金曜日に痛くなって、それまでに無かったような酷い痛みだったので、すぐに近所の内科の町医者へ行った。特に異常が見られないということで通常の胃薬をもらって帰宅した。薬を飲んで痛みがとりあえず和らいだので、まぁひとまずは安心してやり過ごした。ところがその後も痛みが完全には治まらない。急患センターへ行こうかとも思ったが、あそこは本当に応急処置しかしてくれず根本的な解決にはならないので、我慢して何とか週末を乗り切った。

 そして月曜日になり、もう我慢できないほどの激痛に襲われる。吐き気がするとか便意を催すということは全くなく、キリキリと痛むというのはあのことだろうか、お腹の少し下の部分が激しく痛む。立つことをおろか、寝ていても身体をくの字にしてお腹に力を入れていないと、痛くて耐えられない。金曜日に受診した同じ町医者へ駆け込んだが、原因が分からないし、そこでは対応しきれないと言うことで大きな病院を紹介してもらい、救急搬送されてその病院へ向かった。金曜日に受診して月曜日にこんな状態になるってことはその町医者のミスジャッジではないだろうか。あれからそこへは一度も行っていない。

 救急車の中で私に付いていてくれた隊員から色々質問を受けた。痛くて話すのも辛かったが、きっと大切なことなんだろうと思い、金曜日からの経緯を全て説明した。加えて原因の心当たりや週末の食事内容・行動内容などを頑張って説明した。目を開けているのも辛かったのを覚えている。この時気づいたことがあった。我慢をするにはするのだが、声に出して「痛いよ~痛いよ~」と泣き言を吐露すると少し痛みが治まるような気がしたのだ。不思議なもので、歯を食いしばって何も言わずにグッと“男らしく”堪えるよりも、弱音を吐いた方が楽になれたのだ。そんなものなのだろうか。

 散々説明してようやく質問が終わり、病院に到着した。足に力がまだ入るのが分かったので、隊員に迷惑をかけてはいけないと思い、そのまま担架で運び入れてもらうのを遠慮した。そしてお腹をだき抱えながら前のめりな感じで歩いて病院へ入ろうとした途中に、乗ってきた救急車を運転していた隊員から私に声がかかった。「どうせ酒でも飲んでいたんだろう!?」極めて野蛮で横柄な叫び方だった。私の頭の中には「?」マークが自ずと立ち並んだ。この暴言は一体なぜ私に向かって発せられているんだろうか?ちょっと耳を疑ったが間違いなく私に向けられた言葉だった。
 付いていてくれた隊員さんに頑張って散々説明したことは何だったんだろう。だんだん怒りがこみ上げてきていたが、ずっと激痛に耐えていて体力を奪われていたせいか、力なく「酒~?」とつぶやくのがやっとだった。この時ばかりはさすがの私の「怒りエネルギー」も元気を生み出してはくれないようだ。百歩譲ってもし私が酒を飲んでいたとしても、あれほど苦しんでいる姿をその人は見ているわけで、そういう患者に向かって救急隊員が理由も確かめず頭ごなしに叱りつけることがあっていいのだろうか。
 付いてくれていた方の隊員がどうも後輩らしく、「いや、違うんです」と運転者へ声をかけているような感じがしたが、もうその時は構っていられず、救急口にあったベッドに倒れ込んだ。そして「痛いよ~痛いよ~」と子供のようにグズグズ唸っていた。それでもあの運転手の方への怒りはさらに募っていて、彼らが去った後も「名札を見ておけば良かった~」と痛烈に後悔した。名前さえ押さえておけば、消防署へ苦情の電話くらいかけられただろうに……。あの状況でそんな余計なことを考えられるくらい、私は怒りに満ちていた。

 (その2)へ続く

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