Southpaw

投稿者: | 2021-05-07

 私は右利きだ。野球少年だったこともあって、小さい頃から「左利きだったらな~」と憧れていた。プロ野球の王貞治さんはその代表だった。左手で投げる練習をやってみたりもした。やっぱり左利きはカッコいい。右利きだからそう思うのだろうが、あまり多くいないということと、何かこう、「人と反対」というのが羨ましかった。実際、左ピッチャーを打つのは苦手だった。
 私は手先が不器用だと思っている。コンピュータ内での作業はなかなかに素早くこなせていると思うが、アナログの、実際に切ったり貼ったりという作業が苦手だ。恐らく、一般的な作業量に比べて、非常に時間がかかってしまう。一つの理由として、左手を疎かにし過ぎているからだと考えている。例えば車の運転は、オートマティック仕様車であることもあり、ほぼ右手一本で行う。食事をするときも、ともすると左手は座面と左太ももの間にしまって食べているときさえある。アナログ作業をするときは、間違いなく左手はうまく使えていないだろう。筋金入の右利きだ。

 聞いたところによると、人間の脳には右脳と左脳というものがあって、右脳はイメージや創造性など、感覚的な働きを司り、左脳は論理的な思考を司るのだそうだ。そして右脳は左手、左脳は右手が大きく関係すると言う。だとすると、私は論理的なことが得意な人間ということになる。まさに“仰るとおり”という感じだ。アイデアや創造性が欲しいので右脳を鍛えようと思い立ち、一時左手で歯を磨いたり、字を書いたりしてみたが、結局イライラしてすぐに諦めてしまった。「ならば」と開き直って、今は「左脳を極めてやる!」と論理的な思考を追求するような気持ちでいる。

 ピアノやギターなどの楽器を弾くことができる人たちは凄いな~と思う。左手が動いている。というか、両手が違う動きをしながら、どちらも同時に動いている。私にはこれがとても難しい。起用だな~と感心する。そうしながらさらに彼らは、音楽を奏でているのだ。左手の指先を起用に動かしながら、クリエイティブな右脳の世界を気持ちよさそうに浮遊しているイメージ。素晴らしいと思う。私には経験したことがない世界で、本当に憧れる。
 そこまで行くには左手の鍛錬は欠かせなかったのではないか。ということは、左手を思いのままに動かせなければ、創造性の扉は開かないということなのか。いやいや、手足の鍛錬だけではないだろう。左手に対するコンプレックスが強すぎて、少し思考の窓を曇らせてしまっているかもしれない。

 音楽が好きで、楽器を演奏はできないが、かつてはカラオケでよく歌を歌った。マイクを持つには右手だけで充分だった。酔いが回ると往年のアイドル、ピンクレディーさんのメドレー曲をふざけて踊りながらよく歌った。その中で魔球「ハリケーン」を引っ提げ、あの王貞治さんに真っ向から勝負を挑む、架空の女性左投手のことを歌った歌がある。キャッチャーからの弱気なサインに首を振り、得意の魔球を投げ込むピンクレディーさんたちのホットパンツ姿に、当時は無性にドキドキしたものだ。「希代の怪物を倒すには、情熱的で創造性に富んだ左利きの閃きが効果的」という、作詞者の暗示だったのかもしれない。

 もう一度、左手歯磨きに挑戦してみるか。

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