野球少年だった。夢中になって野球に打ち込んだ。やろうという意志があって始めたわけでは無く気がついたらのめり込んでいた。小学4年生から始めて中学2年生頃までは自分から野球を取ったら何も残らないと不安になるくらい没頭していた。力が抜けないのはこのころ身に付いた性質かもしれない。どうしてあれほど無心で熱中できたんだろう。かけがえのない経験だった。
野球が私にもたらしてくれたものはとても多いと思う。頑張ること、我慢すること、協力すること、感謝すること等、挙げたら数え切れない程たくさんあるだろう。私という人間としての基本を作ってくれた場所だと思っている。技術的なことはさておき思い当たることが精神的な要素ばかりなのが面白い。改めて心を鍛えてもらったんだなと思う。良い事ばかりではなかった。試合に負ければ当然悔しいし、『どうしてあの時』打てなかったんだろう、捕れなかったんだろう、ビビってしまったんだろう。あの時ああしていればという後悔は良い思い出の数以上にあるかもしれない。失敗して練習してまた失敗してを繰り返し、少しずつ大きくなっていった。
中学になると恋をしたり、勉強が忙しくなったり、その他生徒会活動が加わったりと野球だけをやっているわけには行かなくなっていった。おまけに野球界での自分の力の限界も見えてきていた。世界は野球だけでできてはいなかった。次第に野球への情熱は陰りを見せていった。それでもそれら全てにおいて全力で頑張った。楽しかった。生き甲斐を感じていたんだと思う。4番でキャッチャーで生徒会長だった。頑張り過ぎて肘と腰の痛みに加え、帯状疱疹を発症してしまった。疲労・ストレス過多による、比較的体力の弱い老人が罹りやすい病気という説明だった。中3の春、野球の一番大切な大会が控える直前だった。その頃からか色々うまく事が運ばないようになっていった。理由は分からないが心の中に迷いが生じ、元気が失われていったように覚えている。
試合は3位に終わり、上の大会へは進めなかった。好きだった子との恋も結局実らず、さらに受験に失敗して滑り止めの高校へ進学した。中学時代の終わり方はかっこ悪かった。現実は時に残酷だ。でも今思うとまさに私らしい終わり方と言える。その真っ暗闇の中から新しい人生が始まった。神さまが示してくださった壁だったと思う。振り返れば再スタートを切ろうとするときはいつも世界が暗い。ほとんど何も見えないくらい漆黒の暗闇だ。けれども光りを見つけるためには辺りが暗い方がいい。神さまが与えてくださるものはいつも用意周到で無駄がない。
イエス様が生まれたのは一年で一番暗い日だそうだ。