Rain

投稿者: | 2021-05-19

 雨は嫌いだ。小中学校の頃は雨が降ると野球の試合が中止になったし、運動会や遠足など屋外での行事は予定変更を強いられる。せっかく楽しみにしていた催し物ができないことは残念以外の何物でもなかった。大人になってからも屋外に楽しみの場を求める人たちは週末の天気が気になる。私もランニングをしようと思っていた貴重な日曜日が雨でつぶれてしまうとかなり痛い。向こう一週間の予定に微妙に影響を及ぼしてしまう。主には「走れなかった」という精神的な負い目を引きずるのが一番大きい。
 けれども一たび降ってしまって、するはずだった予定をもう諦めてしまった後は、それなりに雨を楽しんだものだった。どこかの歌の歌詞ではないが、傘もささずに雨に打たれるのは嫌いじゃなかった。10代の頃は傘自体を持っていなかったと思う。雨の中をわざとゆっくりと歩いてずぶ濡れで帰宅したこともあった。そんな時何を考えながら歩いていたのか思い出せない。何か沈んだ心持ちだったように思う。

 雨で一番印象に残っているのは、中学生の時に自転車で友達3~4人と遠出をした帰りに、豪雨に見舞われた。自転車を漕ぎながら激しい雨に前を向くことさえままならない状態で、まだまだ帰り道は長かったが、それでも皆ひたすら頑張って漕ぎ続けた。するとどういうわけか、可笑しくなってきた。みんながちょっと狂ったように爆笑しながら漕ぎ続けている。「ひひひひひ~~!!」。自転車でドライバーズ・ハイというのがあるのか知らないが、土砂降りの中、下着までずぶ濡れの上、前方がよく見えない絶望的な状況下で、バカみたいに必死に自転車を漕いでいる自分たちの現実がリアルには捉えられなかったのかもしれない。よく事故に会わなかったと思うほど、猛烈なスピードで突っ切った。歩道と車道の高低差を前輪を少し浮かせながら攻めまくり、大きな水たまりにも構わず突っ込んで高笑い、まさに恐れを知らない青春真っただ中の1シーンだった。

 昔「ザ・ベストテン」という歌番組の中で、司会の久米宏さんが当時トップアイドルだった山口百恵さんに質問した。「朝起きて窓を開けると、どんな天気だったらいいですか?」普通は、「透き通るような」とか「どこまでも続いているような」等の、どの種類の『晴れ』かを答えとして期待すると思う。なぜなら極めて妖艶なオーラを放っていたとは言え、山口さんは当時まだ17か18歳くらいだったはずだから。ハッキリと覚えていないのが残念だが、確か答えは「静かな雨」とか「しっとりとした雨」みたいな感じだったと思う。ゾクっとした。やはりあの方は只者ではないのだろう。久米さんが悩殺されて卒倒しそうなフリをしたのをよく覚えている。

 小学校5年生か6年生の学校帰り、雨の中傘を持たずに一人でトボトボ歩いていると、不意に傘を差した白い洋服の、背の高い優しいおねえさんが、「一緒に行こう」と、相合傘をしてくれた。何だか恥ずかしくてちゃんと顔を見られなかったし、お礼をしっかり伝えられなかった。ませガキの甘酸っぱい思い出。あ!もしかしたらそれに味をしめて、「またあのおねえさんが後ろから……」と、無意識に傘を差さないで歩いていたのかもしれない。

 今年は長い梅雨になるそうです。

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