Tie

投稿者: | 2021-06-04

 ネクタイを160本ほど持っている。先日汚れたものを一気に捨てたのでこれでもだいぶ減った。かつてとてもお世話になった、ある取引先の会社の社長さんが他界されたときに、形見分けということで頂いたものがほとんどだ。その息子さんが欲しいものを先に取って、残ったものをもらってそれだけの数だから、どんだけお持ちだったのかを考えると恐ろしい。今まで自分で買ったのは恐らく20本くらいか。その中でお気に入りの20本程度を秋から今頃までにかけて、ローテーションで締める。

 生前その方は旅行に行くのが趣味で、しょっちゅう海外へ出かけていらっしゃった。どこかへ行くたびにネクタイを買って帰って来るのが習慣になっていたようだ。160本は特に好みが窺えるような色やメーカーの統一性はなく、デザインもバラエティに富んでいる。中にはちょっと派手過ぎたり、センスが悪いと思えたり、つまり「これはしないだろうな」と思うものもあるが、頂き物だけになかなか捨てられないのが正直なところだ。でも私の性格の癖というか、あえて「これはないだろう」と一般的には思えるものに手を出してみたくなる時がある。

 普段スーツを着ている時には、スーツはダークな色がやはり多いので、なかなか奇抜なデザインや派手な色使いのネクタイは合わないのでし難い。一年の中で、気温が上がり始めてからネクタイを完全に外す夏まで少し猶予があるこの時期は、上着を着ずにYシャツ姿にネクタイというスタイルで過ごすので、派手なネクタイをするチャンスなのだ。
 いつもはその日に着るスーツを先に決めて、ネクタイ20本くらいの中から気分に合わせて、またそのスーツを前回に来た時に合わせたものを除外して選ぶ。たった20本でもそれなりに毎日少し迷うものだ。それが160本から選ぶとなるとちょっと大変になる。朝の時間が無い時にそんなことに時間をかけなくてもよさそうなものだが、実はこれがちょっと楽しい。いつもと違う自分になれるような気がして、思い切って真っ赤なネクタイとかにしてみる。時には黄緑とスカイブルーの目が覚めるようなストライプとか、深めの青地に白と赤の蝶々が舞っていたり、昨日は紺地に赤い猫の影絵が描かれていた。曲がりなりにもデザインなんかに携わっているものとしては、それくらい思い切ってやり切った方が、「やっぱりあいつは変わってるな」くらいに思われて、一目置かれるのではないかという読みもある。まぁこんなことを続けてもう13年以上になるので、今さら印象が変わることもないのだろうが。

 でもやっぱり「かわいいネクタイですね」等と声をかけられると嬉しいものだ。それだけで一会話できるし気分も上がる。何か意図的に奇をてらっているようで、いやらしい感じがしないでもないが、この時期だけだから許してほしい。ふと、しているネクタイを手に取って見つめながら、「あの社長さん、ホントにこんなネクタイしてたのかな?」と素朴な疑問を浮かべつつ、彼を懐かしく思い出したりもしている。さわやかな季節の中で、私のこころにも心地よい微風がなびいている。

 でもやっぱりもうちょっと減らさないと。

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