HBO

投稿者: | 2021-07-16

 アメリカのケーブルテレビ会社「HBO」が制作した「ゲーム・オブ・スローンズ」(以下GOT)という連続ドラマシリーズの大ファンになったことは以前に書いた。テレビドラマを観てこんなに大きな衝撃を受けたことは今までになく、観終わって一月以上経った今も余韻が残っている。このことを友人に話すとHBOが15年前に制作した作品で「ローマ」というこれも非常にヒットしたドラマのDVDを持っているということで、早速貸してもらった。制作に8年かかっているそうだが、シーズン2で完結していて、トータル22話で構成されている。

 見始めて最初の頃はどうしてもGOTと比較してしまった。GOTは言わばファンタジーフィクションで、架空の生き物やあり得ないような設定に私は胸を躍らせ、そうした中で個性が際立ったそれぞれの登場人物が繰り広げる人間模様に魅了された作品だった。そういった目をキラキラ輝かせながら、少年の眼差しをもって観るようなファンタジー性は「ローマ」にはない。だから少し物足りなさを感じていた。史実に忠実とは思えないが、全く歴史を無視して作られているわけではなく、大筋の展開は世界史の教科書通りに進んでゆく。だからストーリー展開がびっくりするほど予想から大きく外れるということはなく、むしろ世界史派の私としては、懐かしい復習になるような楽しみ方ができた。

 見続けていくといつしか「ローマ」を覆っていたGOTの大きな影が消え去っていき、反対に“似ている”と言うか、「ローマ」を観ることを通して内側からGOTの原型を観ているような気持ちになっていった。GOTがつくられるきっかけになった作品ではないかと思えた。調べていないので正確ではないが、例えば「監督やスタッフが同じなんじゃないか」等と、同じ血統を感じざるを得ない。事実、主要な登場人物3名が被っている。
 「ローマ」が作り始められたのは恐らく今から20年以上も前になるので、CGや合成技術のレベルは低く、多用はされていないように見える。大勢の軍隊同士が相まみえるシーンは恐らくCGだったがリアル感には欠けていた。しかしそんなことは仕方がないことで、それよりも1シーンに込められた魂というか、エキストラの数もそうだし、手間のかけ方が本当に尊敬に値する。悪役を「ここまでやらせるか」と思わせるほど憎ったらしく演出する手法は、俳優陣の奮闘もあろうが、天下一品だ。アティア→サーセイの系譜には誰もが容易に気づくと思う。
 また両作品に通底のテーマとして垣間見えたのが「差別」だ。家柄の低さや奴隷など生まれながらにして差別を受ける身分の人々が、理不尽な人生をどのように生き抜いていくかが描かれている。この差別に関して私が両作品から感じ取ったことは、「差別は否応なく厳然とそこに存在するけれども、それに抗い過ぎず囚われ過ぎず受け入れて、自分の人生を歩めよ」という感じだろうか。

 とにかく、HBOは凄い。とかく制作費の多さが話題になっているようだが、お金をかければかけるほどいい作品ができるわけでは決してない。映画のように作品時間に制約されず、何話にもわたってある程度の時間をゆっくりかけて表現できる連続ドラマは今後さらに面白いかもしれない。

 「ローマ」、せつなくてとても面白かった

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください