ジンクス

投稿者: | 2021-08-04

 中学校に入ったばかりの頃だった。全校朝会か何かの時に校長先生が「中学に入って最初の中間テストが一番大切だ。大体それで3年間が決まる」という意味の発言をされていた。私はそれを「最初に取った順位が3年間変わらないよ」と解釈した。恐らく私たち新入生を鼓舞するための仕掛けだったのかもしれない。ある意味では「最初から勉強を頑張らないとロクなことにならないぞ」という脅しだった。何故だがその話をよく覚えている。

 小学生の時に家で机に向かって勉強したという思い出がない。野球のことは覚えていることが多いが、こと学習に関してはもしかしたら家で教科書を開いたことがないかもしれないくらい記憶がない。両親は勉強を強いるような親ではなかった。それよりも躾やそれこそ野球の方を応援してくれていた。いい親だった。
 そういう野球バカ少年が中学に入っていきなり勉強のことで脅かされたわけだ。多少焦りを感じたことを覚えているが、「よし!やってやる!」という気持ちの方が強かったような気がする。たぶん人生で初めて真剣に机に向かった。どちらかというと、やったことがないことへの好奇心に動かされたような感じかもしれない。よくやり方が分からなかったが、結構がむしゃらに頑張った。野球以外でそれほど何かに夢中になったことがなかったように思うので、「野球だけが全てじゃないんだ」とバカみたいに純粋に気づいた記憶がある。新鮮だった。
 最初の中間テストの結果が出て、初めて勉強した割には結果は上々だった。一番ではなかったが、高校受験の存在さえ知らないウブな中学一年生を満足させるには充分な成績だった。結果的にそれがマズかった。「なんだ、やればできるじゃん」と驕りになってしまい、以降あまり努力をすることをしなかった。最初のその期間がもしかしたら一番素直に集中して勉強したかもしれない。

 結果的に校長先生の言う通りで、3年後の卒業時も大体同じような成績・順位で終わった。ちょっと下がったくらいだった。それに気づいたときは「校長先生、すげぇ~」と思った。何千、何万人という先例を検証しての考察なのだろう、単なる“脅し”ではなかった。今ではその“脅し”に感謝している。あれがなければ最初にあんなに必死に勉強しなかっただろうと思う。だとすれば最初の成績はもっともっと悪く、結果それを携えて高校受験に臨むことになっていたかと思うとゾッとする。

 みんながみんな最初の成績のまま3年後を迎えるわけではもちろんないと思う。でも何故か私はあの時の校長先生の言葉をずっと覚えていて、まるでその言葉に導かれるように、予言通りの結末を迎えた。本音はもっと成績を上げたかったし何より高校受験に失敗したくなかったが、まるで呪縛にかかったように初めての中間テストを超えることはついになかった。残念ながら挽回するチャンスはもうない。しかしこの呪縛の経験が今後何かの役に立つ気がしてならない。

 校長のことはその話しか覚えてないけど……

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください