知り合いの方で忙しい本業を持ちながら、アマチュアでお芝居をやっている方がいる。アマチュアと言っても、プロとどこでどう境目なのかよく分からない。大抵は無料だが過去に1,000円とか500円とか、入場料を取って見せる公演もあった。コロナもあって頻繁ではないのだが、公演があるときは必ず声を掛けてもらって観に行かせてもらっている。やはり生の臨場感は素晴らしい。映画もいいが、すぐそこに生身の人間が演じているという事実は血をたぎらせる。
観劇していてその方が登場すると「大丈夫かな」と少し心配もあってドキドキするのだが、毎回杞憂に終わり、感心して家路につく。普段から快活な方だが、舞台の上では一際活き活きと躍動されている。「あ~、この人の生きる場所はここなんだな」といつも思う。私は舞台には立ちたいとは思わないが、率直に羨ましいと思う。「輝いている」とはああいう姿のことを言うんだと思う。
20か21歳くらいの時に一人でニューヨークへ行って、ブロードウェイでミュージカルを観た。一つ目は「キャッツ」。内容はあまりよく覚えていないのだが、太った猫役の演者が非常に歌が上手だったことと、広い会場にも関わらず、客席まで演者さんたちが散らばってやって来て、一盛り上げしてくれたのを覚えている。たぶん会場内の各所に“しかけ”の隠し通路があって、猫の特殊メイクを施した出演者たちがどこからともなくササっと客席に忍び込み、来場者をドキッと驚かせる演出だったと思う。私は二階席で観ていたのだが急に目の前にデカい猫が現れ動揺した。
二つ目は「コーラスライン」。主演の女優さんに目が釘付けになった。ダンスがうんまい。特に凄く高くジャンプするわけではなく、目にも止まらぬ速さでスピンするわけでもなく、姿勢がいいというのか、軸がブレないというのか、ひとつひとつの動きがとてもキレイで全く魅了されてしまった。ストーリーがどうとかいう問題は超越していた。今でも目を閉じて思い出すと、シルクっぽい赤いワンピースの華麗なヒロインが、広い舞台の左から右までをカッコいいターンを決めながら精悍にスライドしていく姿が映る。素敵だった。こんなに綺麗でダンスが上手くても、無名の役者なんだろうなと思うと何だかせつなくなった。もっともブロードウェイで主役を張っていれば、無名なんてことはないと思うが、私には馴染みがない名前だった。
三つ目はブロードウェイから少し離れた「オフ・ブロードウェイ」と呼ばれる地域で、確かニューヨーク大学からほど近い場所だったと思うが、「オータム」という芝居を観た。いわゆる「小屋」でのお芝居で、舞台がなく、つまり客席と演技するスペースとの隔たりが無く、本当にすぐ“そこ”で演者の皆さんが芝居してくれた。一人の演者さんが私の鼻先まで顔を近づけて、おどけた演技をして見せてくれた。こちらが恥ずかしかったが、楽しませようとしてくれるサービス魂を感じ、非常に楽しい時間を過ごさせてもらった。3本の中でこの「オータム」が一番入場料が安く、一番知名度がなく、一番面白かった。いつかまたニューヨークへ行くチャンスがあったら、是非この「オータム」をもう一度体験したい。
こうして振り返ると、若い頃からやはりエンターテイメントに関心があったんだなと思う。カナダ時代もよく安い芝居を観に行っていた。英語が完全には理解できないくせに、それでもあまり苦にはならなく楽しんでいた。
プロや高いレベルのものでなくてもいい。現実の生の演技にまた触れていこうかと思う。まずはあの知り合いの方の近況を伺ってみるか。
ワクチン打ってからだな~