先日テレビであるタレントさんが「大谷翔平選手の活躍はマンガなどで想像できる域を超えている」と言っていた。つまり大谷選手の事実をマンガで表現したとしても現実離れしすぎていて、「こんなの、あり得ないでしょ」と読者に一蹴され見放されてしまうくらいの内容だという意味だ。人々の常識を超えた次元で大谷選手は今プレーしている。この好調さが来年再来年と続くとは私は思えない。無論続けて欲しい。しかしそこまでの期待は無謀と思えるほど今年の活躍は信じがたい「奇跡的」な偉業だと思う。
昨日の40号を観た。ハッと驚いたのが、大谷選手がグレーのユニフォームを着ていたこと。アウェイ球場だった。「水を打ったような」という「大勢の人がいるのに静かな様子」を表現する言葉があるが、私の経験上アウェイチームの選手が満員のアウェイ球場でホームランを打っても、普通は“水打ち”状態になるものだ。初めて大リーグを実際に見てそのようなことが起こった時は、観客があまりに無視しているので、「あれ?ホームランじゃなかったのかな?」と目の前で起きた事実を自分で疑ったほどだ。ところが昨日、デトロイトの球場は大谷選手のその瞬間、床が揺れるほどの大歓声に包まれていた。多くの人がその貴重な出来事を収めようと、スマホで写真や動画を撮っていた。私にはちょっと信じられないような光景で、大谷選手の影響力の大きさと成し遂げていることの凄さを改めて感じた。恐らくは今アメリカ中のどの球場へ行っても、同様のことが起きるのだろう。野球を知っているアメリカ人を、しかも敵対する人たちまでを、あそこまで惹きつけることは驚き以外の何物でもない。今日この右中間スタンド中段へ届く大きな放物線を描いたアウェイ選手は、自分たちのチームを8回まで1失点に抑え込んでいる先発ピッチャーでもあったのだ。
デトロイトのファンが気づいていたように、恐らく私たちは150年にわたるアメリカの野球史上において、転機になるかもしれない一つの歴史的な瞬間に立ち会っている。8月21日現在で大谷選手の主な成績は、ホームラン40本、打点88点、ヒット112本、8勝1敗、120奪三振、投球回数100回。今日シーズンが終わったとしても一人の選手が残す記録としては驚愕の数字だが、まだ記録を伸ばすだけの試合数は充分に残されていて、このまま行けばホームラン王を獲れる可能性は高い。個人的には10勝と100打点には届いてもらいたいし、ちょっと酷だが高望みして、ヒット150本、150奪三振の「150/150の達成」を期待している。ここまで来ればできちゃうかもしれない。本当に怪我や故障をしないことを心から祈っている。
野茂英雄選手、イチロー選手、松井秀喜選手などをはじめ、多くの優秀な日本人選手が海を渡った。大谷選手はこういった先人たちの夢と勇気、戦いがあったからこそ、今こうして活躍できる。本人の努力と軌跡はどこまでも称賛されるべきで、しかし本人はきっと様々な形で支えられていることに対し感謝を忘れてはいない。
繰り返し強調したい、大谷選手は一つの歴史を作っている。すでに二刀流選手がこれから多数誕生するだろう起爆剤になった選手と言えるかもしれない。単なる流行ではないと思う。同じ時代を生きられた私は非常にラッキーだと思うし、野球を嫌いな人にも何とか彼の凄さを伝えたい。コロナで息苦しい時にあって、大谷選手に励まされる人は少なくないのではないか。この時代の記憶と共に彼の勇姿を目に焼き付けたい。
「投げて打って走る」が野球だよね!